東京高等裁判所 平成元年(行ケ)226号 判決 1990年9月20日
原告
松下電器産業株式会社
被告
特許庁長官
主文
特許庁が昭和五九年審判第一一四七三号事件について平成元年八月一七日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
主文同旨の判決
二 被告
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決
第二請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
出願人 原告
出願日 昭和五四年三月五日(同年特許願第二五八〇八号)
本願発明の名称 「電子部品装着装置」
拒絶査定 昭和五九年四月一八日
審判請求 昭和五九年六月二一日(同年審判第一一四七三号事件)
審判請求不成立審決 平成元年八月一七日
二 本願発明の要旨
A リード線を有しない電子部品を所定の間隔に設けられた収納穴に収納する収納テープ及びこの収納テープに収納された電子部品を被覆する被覆テープとで構成した電子部品集合体の供給部を複数列設け、
B 前記供給部から供給された電子部品集合体の電子部品を吸引して、予め接着剤を塗布した基板の所定位置へ移載する手段を備えた装置であつて、
C 間欠送り手段により間欠送りされた長さのみ前記電子部品集合体の被覆テープを剥ぎ取る手段を備えるとともに、
D 被覆テープが剥ぎ取られた位置と、移載する手段により電子部品を吸引する位置とが隣接しないように収納穴の間隔で複数個分離して両位置を構成し、
E この両位置間において、収納テープの収納穴から電子部品が脱落しないよう収納穴上に押え手段を設けた電子部品装着装置。
(別紙図面(一)参照、なお、A、B…は理由説示の便宜上当裁判所において付記したもので、以下、各構成を「A構成」「B構成」…ともいう。)
三 審決の理由の要点
1 本願発明の要旨
前項記載のとおり(特許請求の範囲記載のとおり)。
2 特願昭五三-一六三五八一号(特開昭五五-八八三九八号)の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下「先願明細書」と総称する。)に記載された発明(以下「先願発明」という。)
a 台板(7)と下テープ(8)により収納凹部(4)を所定間隔で形成し、その収納凹部(4)にチツプ状電子部品(2)を収納し、その収納凹部(4)を上テープ(6)で被覆したチツプ状電子部品連を供給する装置(別紙図面(二)第五図)、
b チツプ状電子部品連 のチツプ状電子部品(2)を吸引し、上下横方向に移動してプリント基板等に設置する吸引チヤツク、
c チツプ状電子部品連 を間欠的に送る搬送装置 及び上テープ(6)を剥ぎ取るための引上げローラ 及び巻取りロール、
d 上テープ(6)が剥ぎ取られた位置と吸引チヤツク とを所定間隔離して配置し、
e 上テープ(6)が剥ぎ取られたすぐ後の収納凹部(4)から吸引チヤツク と対向する収納凹部(4)の間には、収納凹部(4)からチツプ状電子部品(2)が振動により飛び出すことのないようにチツプ状電子部品(2)を収納凹部(4)の底面に吸着するように吸引箱 と吸引孔(10)を設けたチツプ状電子部品供給装置。
(別紙図面(二)参照。なお、以下、各構成を「a構成」「b構成」…という。)
3 本願発明と先願発明との対比判断
(一) 本願発明のA構成と先願発明のa構成について
本願発明の電子部品集合体の供給部は先願発明のチツプ状電子部品連を供給する装置に相当するから、両者は、本願発明が供給部を複数列設けた点で差異があるものの、その他の点では一致していることが認められる。この差異についてみるに、電子部品装着装置において、電子部品の供給部を複数列設けることは周知であるから(特開昭五三-一一一四七八号公報、米国特許第三九五八七四〇号明細書同第四一三五六三〇号明細書)、この差異は単なる設計上の差異にすぎない。
(二) 本願発明のB構成と先願発明のb構成について
本願発明は接着剤を塗布した基板を用いているのに対し先願発明はプリント基板に接着剤を塗布しているのか否か明らかでないから、両者はこの点で差異がある。しかしながら、基板に接着剤を塗布して電子部品を固定することは周知であるから(特開昭和五二-九八九七四号公報参照)、この点の差異は単なる設計上の差異にすぎない。
(三) 本願発明のC構成と先願発明のC構成について
本願発明のC構成は先願発明のc構成に相当するものと認める。
(四) 本願発明のD構成と先願発明のd構成について
本願発明は被覆テープが剥ぎ取られた位置と電子部品を吸引する位置とが収納穴の間隔で複数個分離しているが、先願発明は上テープが剥ぎ取られた位置と吸引チヤツクとが収納凹部の間隔で何個分離されているのか明示されていないから、両者はこの点で差異がある。しかしながら、先願明細書の第七図には、上テープが剥ぎ取られた位置と吸引チヤツクの間に一個の収納凹部を設け、かつ波線の部分で途中を省略し、両波線の部分には各一個の台板を設けたものが記載されているが、これら波線の間(台板と台板の間には少なくとも一個の収納凹部が存在することは第二図等の記載に照らして明らかであるから、先願発明も収納凹部の間隔で最低二個分、したがつて複数個分離していると解することができる。何個分離するかは、本願発明の電子部品を収納する穴や電子部品を吸引して移載する手段の大きさ、移動範囲等を勘案して、被覆テープの剥ぎ取り手段が電子部品の吸引、移載に支障を来さないように配慮する設計的事項にすぎない。
(五) 本発明のE構成と先願発明のe構成について
(イ)両者は、ともに被覆テープ(先願発明の上テープ)が剥ぎ取られた後電子部品を吸引するまでの間に電子部品が収納穴(先願発明の収納凹部)から脱落しないように配慮し脱落防止手段を設けている。(ロ)そして本願発明は、脱落防止手段として押え手段を採用しているが、先願発明はチツプ状電子部品を収納凹部の底面に吸着させているから(ハ)先願発明も一種の押え手段を採用していると認められる。(ニ)更に、押え手段の具体例として、本願発明は押え板 を採用しているが、(ホ)この押え板の類のものは周知であるから(米国特許第二二八〇五七二号明細書記載のシユー 特公昭四五-六三九六号公報記載の頭押え(2))、(ヘ)押え手段として押え板を採用することは単なる設計的事項にすぎないものと認められる。
4 (イ)以上を総合すると、本願発明は先願発明と実質的に同一のものであると認められる。(ロ)そして本願発明の発明者と先願発明の発明者とは同一の者でなく、かつ本願発明の出願の時に本願発明の出願人と先願発明の出願人とは同一の者ではない。
5 したがつて、本願発明は、特許法二九条の二の規定により特許を受けることができない。
四 審決を取り消すべき事由
審決の理由の要点1及び2は認める。3の(一)ないし(四)は認める。同(五)のうち、(イ)、(ロ)、(ニ)は認めるが、(ハ)、(ホ)、(ヘ)は争う。4のうち、(ロ)は認めるが(イ)は争う。5は争う。審決は、次のとおり本願発明のE構成と先願発明のe構成の対比判断を誤つた。
1 本願発明のE構成と先願発明のe構成は、被覆テープ剥ぎ取り後の収納穴からの電子部品の奪略を防止する手段という点では共通するが、その具体的構成を全く異にする。すなわち、両者の構成は、本願発明のE構成と先願発明のe構成とを対比することからも明らかなように、本願発明が電子部品集合体の収納穴上に押え手段を設ける構成を採用しているのに対し、先願発明においては、チツプ状電子部品連の収納凹部の底部に設けた吸引孔から収納凹部に収納された電子部品を吸引する構成(吸着手段)を採用している点で全く異なるのみならず、その設置範囲の点でも、本願発明の押え手段が電子部品の吸引位置にまで及ばないのに対し、先願発明の吸着手段は、吸引チヤツクによる電子部品の吸引位置まで及んでいる点で相違する。そして、以上のような構成の相違に基づき、両者の作用効果も、本願発明の押え手段は収納穴の上から押え手段により収納穴自体を覆うものであるため、本願発明の明細書(甲第四号証の本願発明に係る手続補正書)にも記載のあるとおり、電子部品の脱落防止効果のみならず、ごみの付着防止効果を有するものに対し、先願発明においては、収納凹部の穴は開放されたままであるため、ごみの付着防止効果を有しない点、先願発明の吸着手段は電子部品の吸引位置にまで及んでいるため、吸引チヤツクによる電子部品の吸引、移載を円滑になすためには、吸引チヤツクの吸引力と脱落防止手段としての吸着手段の吸引力の関係を適切に調整する必要があるのみならず、収納凹部の電子部品の位置如何によつては、両者の吸引力の働きによつて電子部品に不適当な回転モーメントが発生してしまうという欠点があるのに対し、本願発明にはそのような不都合がない等の点の点で著しく異なるから、この点に関する本願発明と先願発明の構成が実質的にも同一とはいえないことは明らかである。
したがつて、本願発明のE構成と先願発明のe構成の対比判断に当たり、審決が、被覆テープ剥ぎ取り後における電子部品の収納穴からの脱落防止のための手段に関する構成の点でも、本願発明と先願発明との間に実質上差異がないとした点は誤りである。
2 被告は、本願発明における前記ごみの付着防止効果につきごみの付着を防止するためには電子部品の収納穴を確実に閉塞することが必要であるところ、本願発明の特許請求の範囲にはその点に関する記載がないから、本願明細書に右効果が記載されているとしても、これは特許請求の範囲の記載に対応するものではない旨主張するが、本願発明が電子部品集合体からの被覆テープの剥ぎ取り後直ちに、収納穴上に押え手段を設けることとしたのは、電子部品集合体の収納穴を被覆することにより、電子部品の脱落を防止するとともに電子部品へのごみの被着をも防止していた被覆テープの剥ぎ取りに伴い、従来被覆テープが果たしていた機能を押え手段に果たさせるためであるから、電子部品の収納穴は押え手段により密封されるものであり、この点、敢えて特許請求の範囲に記載がなくとも容易に理解し得るところというべきであるから、右被告主張は当たらない。また、被告は、甲第七号、同第一〇、一一号証を援用して、これらに記載された押え板等の脱落防止手段を部品上部に設ける点がテーピングされた電子部品の連続搬送にも共通に適用され得る慣用手段であることは明らかである旨主張するが、右各証拠に記載された手段は、いずれも、部品供給形態として電子部品をテーピングする方法を採用する場合に関するものではなく、また、本願発明や先願発明における如く、そのような方法を採用する装置における被覆テープ剥ぎ取り後の問題点の解決のためのものでもない。
第三請求の原因に対する認否及び被告の主張
一 請求の原因一ないし三は認め、四は争う。
二 被告の主張
1 被覆テープ剥ぎ取り後の収納穴からの電子部品の脱落防止手段の点での本願発明と先願発明との間の具体的構成の差異は、同一の目的を達成するうえで設計者において適宜選択し得る範囲内の差異にすぎない。すなわち、両者は、被覆テープが剥ぎとられた後のテープの収納穴から振動等により部品が飛び出したりするのを防止するために、当該収納穴に対応して脱落防止手段を設ける点で一致するものであり、ただ、本願発明は脱落防止手段を収納穴の上部に設けているのに対し、先願発明では、脱落防止手段を収納穴の下部に設けている点で相違しているにすぎない。そして、両者の間で電子部品の脱落防止効果の達成に何ら差異はなく、また、甲第七号証(米国特許第三九五八七四〇号明細書)記載の装置の「カバーシート」にみられるように、電子部品の装着装置の部品供給部において部品の脱落等を防止するために部品の上部に例えば押え板のような押え手段を設けることは周知であり小部品の連続搬送において押え板等の脱落防止手段を部品の上部に設けることも審決も例示(甲第一〇号証・米国特許第二二八〇五七三号明細書、同第一一号証、特公昭四五-六三九六号公報)するように周知であることに照らせば、押え板等の脱落防止手段を部品上部に設ける点がテーピングされた電子部品の連続搬送にも共通され得る慣用手段であることは明らかであるから、本願発明は、先願発明のe構成において収納凹部の下部に脱落防止手段を設ける構成に代えて慣用手段にすぎない部品の上部に例えば押え板のような押え手段を設けたものにすぎず、右は単なる慣用手段の転換又は単なる均等手段の転換を図つたにすぎないというべきであるから、この点でも、両発明が実質的構成を同一にするものであることは明らかである。 2 なお、原告は、本願発明の押え手段が電子部品の吸引位置にまで及ばないのに対し、先願発明の吸着手段は、吸引チヤツクによる電子部品の吸引位置まで及んでいる点でも両者の構成は異なる旨主張するが、先願発明においても、吸引位置にまで吸着手段が及ばないようにすることは任意になし得るものと認められるから、この点は単なる設計上の微差にすぎない。また、原告は、本願発明の押え手段は、電子部品の脱落防止効果のみならず、ごみの付着防止効果をも有するものであつて、この点でも、先願発明とは異なる旨主張するが、通常クリーンルーム内で行われる電子部品の組立の際の微細な塵等のごみの付着を防止するためには電子部品の収納穴を確実に閉塞することが必要であるところ、本願発明の特許請求の範囲にはそのような点が全く記載されておらず、本願発明の明細書の詳細な説明の項にごみの付着防止効果に関する記載があるとしても、この記載は特許請求の範囲の記載と対応していない。
第四証拠関係
本件記録中の書証目録の記載を引用する。
理由
一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。
二 前記当事者間に争いのない本願発明の要旨に成立に争いのない甲第三、四号証(以下「本願明細書」という。)を総合すれば、本願発明はリード線を有しない微小電子部品等を電子回路基板等に装着する装置に関するものであること、従来、リード線を有する電子部品については、装着の安定化と正確化を図るために、電子部品の供給を複数個の電子部品を等間隔に固定したテープを用いて行う装置が開発されているが、このようにテーピングされた電子部品の供給形態をリード線を有しない微小電子部品等に適用するに当たつては、テープ及び部品の取扱上に起因する部品の脱落等の問題点があつたこと、本願発明は、リード線を有しない電子部品を対象とする場合の、かかる問題点の解決を目的として前記当事者間に争いのない本願発明の要旨のとおりの構成を採用したもので、殊に、リード線を有しない電子部品を収納する収納穴を有する収納テープ及びこの収納テープに収納された電子部品を被覆する被覆テープとで構成した電子部品集合体から被覆テープを間欠送りの長さ分だけ剥ぎ取る手段を設けるとともに、収納穴からの電子部品の脱落を防止するために、被覆テープの剥ぎ取りによつて電子部品の露出した収納テープ上の収納穴を、直ちに上から押える「押え手段」を設けることにより、前記部品の脱落等の問題点を解消した点を特徴とするものであることが認められる。
そして、先願発明が、審決の理由の要点2のとおりの構成からなり、本願発明同様、リード線を有しない電子部品の装着装置に関するものであることは当事者間に争いがなく、本願発明の構成と先願発明の構成との間には、被覆テープ剥ぎ取り後における収納穴からの電子部品の脱落防止のための手段に関する構成の点を除き、実質上差異がないことも当事者間に争いがない。
三 取消事由に対する判断
1 原告は、取消事由として、被覆テープ剥ぎ取り後における電子部品の収納穴からの脱落防止のための手段に関する構成の点でも、本願発明と先願発明との間に実質上差異がないとした審決の判断の誤りを主張するので、判断する。
(一) 前記二設定の事実及び本願明細書(前掲甲第三、四号証)の記載に徴すれば、前記脱落防止手段として本願発明が採用する構成は、被覆テープ剥ぎ取り手段による被覆テープの剥ぎ取り位置の直後から電子部品の吸引・移載手段による吸引位置の直前までの間に、電子部品が収納された収納テープの収納穴を上から押える押え板等の「押え手段」を設けるものであることが明らかであり、他方、前記当事者間に争いのない先願発明の構成及び成立に争いのない甲第五号証の二によれば、前記脱落防止手段として先願発明が採用する構成は(括弧内は本願発明の対応部材)(なお、右の対応関係は本願明細書との対比上明らかである。)チツプ状電子部品連(電子部品集合体)を構成する下テープ(収納テーム下面の被覆テープ)の収納凹部(収納穴)底面に吸引孔を設けるとともに、上テープ(被覆テープ)が剥ぎ取られたすぐ後の収納凹部から吸引チヤツク(吸引・移載手段)と対向する収納凹部までの間に、収納凹部に収容されたチツプ状電子部品を収納凹部の底面に吸着し得るように吸引孔から空気を吸引するための吸引箱を設けるものであることが認められる。
(二) 右認定事実によれば、本願発明と先願発明とは、被覆テープ剥ぎ取り後における収納穴からの電子部品の脱落を防止するための手段を設ける点では軌を同じくするとはいえ、その目的を達成するための具体的手段としては、本願発明が電子部品の収容された収納穴を上から押える押え板等の「押え手段」を用いることにより電子部品の脱落を防止しようとするものであるのに対し、先願発明では、収納凹部底面に設けた吸引孔から空気を吸引する手段を用いることにより電子部品の脱落を防止しようとするものである点で、基本的にその構成を異にするものといわざるを得ない。
(三) この点に関し、被告は、成立に争いのない甲第七号証(米国特許第三九五八七四〇号明細書)、同第一〇号証(米国特許第二二八〇五七三号明細書)、同第一一号証(特公昭四五-六三九六号公報)を援用することにより、押え板等の脱落防止手段を部品上部に設ける構成がテーピングされた電子部品の連続搬送にも共通に適用され得る慣用手段にすぎない旨主張する。しかしながら、前記のように本願発明のE構成と先願発明のe構成とは全くその構成を異にしており、加えてE構成が本願発明の特徴に係わるものであることも考慮すれば、構成を異にする技術的手段が慣用手段の関係にあることを理由に両者が実質上同一であるというためには、その前提として、両者の構成による技術的手段がいずれも両発明が属する技術分野において多く用いられていることを要するものというべきである。しかして、甲第七号証記載の装置は電子部品の装着装置ではあるが、電子部品をテーピングすることによる部品供給形態を採用するものではなく、また、甲第一〇、第一一号証記載の装置はそもそも電子部品をその供給対象とするものではないことが認められるから、これらはいずれも、本願発明のE構成のように、部品供給形態として電子部品をテーピングする方法を採用する場合に押え板等の押え手段を部品上部に設ける構成が慣用されていたことを示すものでないことは明らかであるし、また、前掲甲第三、第四号証(本願明細書)及び第五号証の二によれば、本願発明や先願発明のような装置においては、脱落防止手段として、電子部品の吸引・移載手段や被覆テープの剥ぎ取り手段の運動を妨げないような構成のものを採用する等の必要のあることが窺われる点をも考慮すれば、被告援用のの前記各証拠中に本願発明のE構成に近い技術が示されているとしても、かかる技術的手段が本願発明や先願発明のような装置においても適用し得ることの明らかな慣用手段であるとも、にわかには認め難い。更に、先願発明の構成が慣用手段であることを認めるに足りる証拠はない(被告は本願発明のE構成のみが慣用手段であれば足りるかの如き前提で主張をしているが、これと先願発明のe構成との実質的同一性を肯認するためには、両者の構成ともが当該技術分野において慣用手段であることを要するものと解すべきである。)。また、被告は、本願発明における押え手段に係る構成の採用を、単なる均等手段に転換にすぎないとも主張する。しかし、前示のように、両者はその構成を基本的に異にするものである以上、被告主張のようにその奏する作用効果に何ら差異がないものと断定することは困難であるうえ、右のように両者が基本的に構成を異にし、かつ両者の構成による技術的手段に慣用性が認あられない以上、仮に両者の構成による効果にさしたる差異がないとしても、そのことの故をもつて、両者が単なる均等手段の関係にあるとして、構成の実質的同一性を肯定することは相当でない。
(四) そうであれば、審決は、被覆テープ剥ぎ取り後における電子部品の収納孔からの脱落防止のための手段に関する構成の点でも、本願発明と先願発明との間に実質上差異がないとした点においてその判断を誤つたものである。
2 そして、右判断の誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、審決は違法として取消しを免れない。
四 よつて、原告の本訴請求を認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 舟橋定之 裁判官 小野洋一)
<以下省略>